『レモンタルト』紹介

このタイトルにした意味

長野まゆみ『レモンタルト』

好きな人がもし、亡くした人間をいつまでも想っているならあなたはどうしますか?

この物語は姉を亡くした主人公の男性と姉の夫、つまり主人公の義兄のお話です。

連作集となっていて、5作でひとつの物語です。

『傘をどうぞ』で始まり、表題の『レモンタルト』など3編があり、『傘どろぼう』で終わります。

傘で始まって、傘で終わるなら、傘にちなんだタイトルにすればよかったのでは?

いえ、タイトルは5編のうち『レモンタルト』から取るのが一番しっくり来るのです。

タイトルの『レモンタルト』は主人公の気持ちを表しています。

亡くなった姉の墓参りで特定の店のレモンタルトを買ってこいと義兄に命じられる主人公。

しかし、その店では買えず、姉弟が子供のころから好きだったレモンケーキを買って帰ります。

義兄はあくまで特定の店のレモンタルトにこだわります。

それが姉との思い出だからです。

義兄はまだ姉のことを想っているのです。

ここで主人公には自分が義兄に入る余地がないことが表現されます。

そうです。

主人公の男性は義兄のことが好きなのです。

タイトルの『レモンタルト』。

義兄と亡くなった姉の思い出の詰まったレモンタルト。

主人公は姉に勝つことはできないのです。

でも、物語の終盤になんとしてもレモンタルトを口にしたい主人公が特定の店に行きます。

そこには義兄がいて、

「おまえが食べたそうだったから」

と言ってきます。

その時、主人公は義兄との距離が近くなったのと同時に義兄には勝てないことを悟ります。

私は亡き姉が言った海も、このとき主人公が海に行きたくなった理由も考察できませんでしたが、

主人公は海で泳ぐ自分を思い浮かべました。

これから義兄との思い出の味になっていくと同時に亡くなった姉とも間接的に繋がっていく。

だから、『レモンタルト』がタイトルに冠しているのだと思います。


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